別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 そして5年前に和輝が本気で結婚を望んでいた女性。

 
 未来が加奈と初めて会ったのは高校2年生の時だ。

 日比野家と猪瀬家は先代のころからビジネスで強いつながりがあり、親交を深めるために加奈は父親に連れられて何度か猪瀬の屋敷を訪れていたらしい。

 屋敷に来客があるとき未来は遠慮して姿を見せないようにしていたし、この日もそうだったが、土曜の部活から戻ってきたとき、帰ろうとした日比野父娘と入れ違う形でたまたま鉢合わせしてしまった。

 当時、音大を出たばかりの加奈はすでに実力を備えたフルート奏者で、美しい顔立ちとスタイルの良さに未来は目を奪われた。
 未来は貴久から彼らに“親戚の娘”と紹介された。

『まあ、かわいい。高校生? いいわね、私もあの頃に戻って青春したいわ』

『加奈さんは吹奏楽部の熱烈な勧誘を蹴ってまで、有名な教師をつけてプロを目指していたから高校生活を楽しめなかったのかもしれないな』

 気遣う言葉をかけた和輝に加奈は美しい顔をほころばせて笑った。

『ふふ、さすが和輝先輩、よく覚えていますね』
< 158 / 230 >

この作品をシェア

pagetop