別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 加奈と和輝は同じ高校出身で2学年違いだという。
 ふたりが親しい間柄に見えて、未来の心は落ち着かなくなったことを覚えている。
 しかし、この立ち話程度のやりとり以来、加奈と顔を合わせたことは無かった。
 
 彼女に再び会ったのは今から5年前、未来が二十歳の誕生日を迎えた後の事だった。

 大学からの帰り道、加奈にばったり出会い『あら、未来さんじゃない。お会いできてうれしいわ。せっかくだからちょっとお話しできない?』と笑顔で近場のカフェに誘われた。

 一度しか言葉を交わしたことのない自分を誘ったことを不思議に思っていると、加奈はテーブルの上の紅茶を一口飲んで言った。

『まだあなた猪瀬のお屋敷に住んでいるの? すいぶん取り入るのが上手いのね』

 冷たく鋭い視線。豹変した態度に驚くと同時に、未来は加奈に敵意を向けられていることに初めて気づいた。

『取り入ってなんて』

『私にはそう見えるけど? だったら、いつまで依存するつもりなのかしら』

『それは……っ』
 
 未来は返事に詰まる。

『他人の私に言われるのは気に障るかしら。でも、和輝さんに聞いたのよ。あなたは親戚じゃないって。亡くなったお母様の縁なんですってね』
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