別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

『和くんに？』

　和輝が加奈に自分の境遇を話していたことに驚いたが、続いた言葉に未来は言葉を失った。

『そのくらいのことは知ってるわ。だって私、和輝さんと結婚するかもしれなかったから』

『え……』

『猪瀬から縁談が申し込まれていたのよ。あちらのお祖母様とお父様、何より和輝さんが私を妻にと望んでくださって。でも、私海外で活動する夢を諦めきれなかったの』

　加奈はドイツで活動することが決まり、先日日本での最後の公演を行ったばかりだという。

『和輝さんからは何度も説得されたけど、音楽家としてのチャンスを逃したくなくて。申し訳ないけれど、彼の想いを受け入れることはできなくて……お断りすることになってしまったわ』

　心残りを感じる口調は加奈も和輝に好意を持っていることを思わせるものだった。

『そう、だったんですか……』

　さまざまな感情で、胸が押しつぶされそうになる。

『ねぇ未来さん、勘違いしない事ね。和輝さんがあなたに優しいのは、あなたがかわいそうだからよ』

『……っ』

『この先会うことがあるかわからないけれど、お元気で』