別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 押し黙ることしかできない未来に余裕の笑みを浮かべ加奈は席を立ったが、未来はしばらくその場から動くことが出来なかった。
 ショックだった。和輝が真剣に結婚を望む相手がいたこと、その相手から自分の甘さを否定されたことも。

 和輝への想いを諦めてまで海外に発つに加奈にとって、いつまでも自立しようとせず、当然のように猪瀬の家で暮らし、和輝に妹のようにかわいがられている未来の存在は許しがたいものなのだろう。

(私、いつの間に猪瀬のお屋敷にいるのが当たり前になってた。和くんが優しいのは、お母さんを亡くしてお父さんと離れて暮らす私に同情して気を遣っているから。全部日比野さんの言うとおりだ)

 加奈に言われた“依存”という単語が心に重くのしかかる。

 この事は未来が猪瀬の屋敷を出て独り暮らしを決断するきっかけとなった。


(ヨーロッパを拠点に活動しているはずの日比野さんがなんでうちのオフィスに?)

「それにしてもお似合いだよなぁ」

 妙な胸騒ぎを覚える未来の後ろからいきなり声がして驚く。振り向くと同期の尾形だった。

「お、尾形君、なんでいつも私の背後を取るのよ」
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