別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～

「でも、社員でもない娘を連れてくるのは不自然じゃないですか？　実は昨日海営の新田と飲んだ時に聞いたんですよ。加奈さんは今後日本を活動拠点にするそうですよ。それならと父親の日比野社長に結婚を強く勧められてるらしくて。INOSEとしても日比野楽器とのつながりがさらに強固になる上、美人フルート奏者で有名な加奈さんが次期社長の妻となれば企業イメージアップにつながっていいこと尽くしだって」

　過去の経緯を考えるとあり得ないことではない。それだけに尾形の話は未来の心に重くのしかかってきた。

　５年前は加奈の渡航で成立しなかった縁談だ。彼女の帰国によって再度もちあがってもおかしくない。今更見合いということは無くても、結婚に向けての正式な顔合わせをした可能性はある。

（先週和くんが猪瀬のお屋敷に行くって出かけたのは、そのためだった？）

　仕事が入らない限り未来と一緒に過ごすのが当たり前だった和輝が、先週の土曜日だけはひとりで実家に帰ると出かけていったことを思い出す。

　夜帰ってきた和輝に『皆さん元気だった？』と聞いたのに和輝は『まあな』と言ったきり、多くを語ってはくれなかった。

（何となく突っ込んで聞ける雰囲気ではなかったんだけど、あれって、私に日比野さんのことを話しづらかったからかもしれない）