別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 未来は背筋を伸ばして答え、加奈を応接室に案内した。

 ソファーに座る加奈を見て未来は改めて彼女の美しさを実感する。

(相変わらず綺麗な人だなぁ。身のこなしも上品で優雅だし)

 ネイビーのラインが縦に入ったオフホワイトのワンピースは個性的なデザインだが加奈にとても似合っている。人に見られることに慣れている余裕を感じる。

 未来も雪成に指導された美容法を今もできる範囲で続けているし、服装にも気をつかっているがやはり生粋のご令嬢を目の前にすると次元が違うことを実感する。

 加奈はコーヒーカップに口を付けて一息ついた。

「連れまわされて疲れちゃったわ。別に歩き回りたいわけじゃなかったのに」

「今日は来社いただきありがとうございます。日比野さんのご活躍はこちらのメディアでもよく取り上げられています」

「まあ、それなりの評価は貰っているわ。そういうあなたは相変わらずみたいね。どうせ和輝さんか猪瀬のお父様に頼み込んでコネ入社したんでしょ」

 対お客様のモードの未来に加奈は笑みを返した。蔑みを滲ませながら。
 五年前と変わらない冷たい態度。やはり彼女はここで未来と仕事の話をするつもりではないようだ。
< 166 / 230 >

この作品をシェア

pagetop