別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
《今日から友達の家に泊まって引っ越し先探します。落ち着いたらこっそり荷物は片付けに行くね。いまま
でありがとう。私のことは心配しないでね!》

「……は?」

 画面をみたまま固り、低い声が漏れた。

 どういうことだ。訳が分からない。すぐに未来に電話をかけるが、コール音が鳴り続けるだけで繋がらない。
 和輝は焦り始める。

(未来、いったいどうしたんだ?)

「和輝君、少しいいかな」

 背後から声がしたので、和輝は一度電話を切り振り返った。

「……日比野社長、加奈さん」

 そこには日比野父娘が立っていた。

 どうやら和輝がひとりになるところを狙って出てきたようだ。ふたりとも笑顔を浮かべている。

「和輝君、どうだろう。うちの娘とのこと、もう一度考えてくれないか?」

「その話は5年前にお断りさせていただいたかと」

 そんな話をしている場合ではないと思いながら、何とか最低限の礼儀を保って返事をする。

 和輝は以前から加奈から想いを寄せられていて、彼女が音大を卒業した時に一度告白されたことがある。
 だが和輝は加奈の想いを受け入れることはなかった。
 単純に彼女をそういう対象として見ることができなかったのだ。
< 170 / 230 >

この作品をシェア

pagetop