別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 気づくと店内中、他の客から従業員まで興味津々でこちらに注目している。
 店に飛び込んできた規格外のイケメンと性別不詳の美人に挟まれた平凡顔の自分の関係をいろんなパターンでと想像していそうだ。

「う、うん、わかった。ユキちゃん、また連絡するから」

 いたたまれなくなった未来は和輝とふたり店を出ることにした。

「もう、世話が焼けるんだから……ちゃんと幸せになんなさいよ」

 去り際、親友の優しい声が聞こえた気がした。


 和輝と店を出た未来は彼に手を引かれて歩く。

 お互い無言だが、未来の手は和輝の掌に逃がさないとばかりに強く握られていた。

 しばらくすると人気のない公園脇の駐車場に着く。

「乗って」

 和輝が助手席側のドアを開け乗るように促したので、未来は素直に従った。

 慎重にドアを閉めた和輝は運転席に回った。再びドアがバタンと閉まる音を最後に車内がしんと静まり返る。

 和輝は手に持っていたスーツのジャケットを後部座席に投げるとシートベルトをするでもエンジンを掛けるでもなく、何かを考えるように黙ってシートに身体を預けている。

 静寂が気まずい。
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