別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 胸が一杯になり、声を詰まらせる未来の肩を和輝がそっと抱き寄せた。

「未来に迷惑かけられたなんてこの家の人間はだれ一人として思っていない」

「そうだよ。我が家は君の存在と笑顔でどれだけ救われてきたか。こちらこそありがとう。それと、これからもよろしく」
 
 貴久は柔らかい声で未来に言った後、和輝に視線をやった。

「和輝。未来ちゃんを必ず幸せにしなさい」

「言われなくてもそのつもりです」

「おじさん、和くん……」

 貴久の優しさと、和輝の力強い返事にさらに涙腺が緩んでくる。

「で、いつ婚約を公表するんだ?」

「そうですね、週明けには」

「はやっ!」

 思いがけない展開に出そうになった涙が引っ込んだ。

「待って待って和くん、普通はもうちょっと根回しとか、あと心の準備とか」

「また変な噂が流れても困るからな。それに未来に懸想する輩を一気に駆除したい」

「駆除って害虫みたいに。それにそんな人……」

 いないとは言えない。尾形のことが頭をよぎり、一瞬言いよどんだ未来の様子を貴久も和輝も見逃さなかった。

「和輝、急いだほうがいいな。うちの嫁に悪い虫でもついたら大変だ。で、結婚式は?」
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