別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 上機嫌で未来はお礼を言った。

 本来アルコールに強い未来は一般の女性よりかなり飲める方だと思う。
 飲み会でも周りの人と同じペースで飲んでも酔いつぶれることはなく、介抱する側に回る。

 しかし、今日は和輝とふたりで過ごす最後の夜だという妙な緊張感や、朝から精神的にも肉体的にも忙しかったためか、普段より酔いが回るのが早い気がした。心地よい酩酊感がある。

「本当に夕食だけでよかったのか? 誕生日なんだから好きなもの強請れば良かったのに。欲しい服とかなかったのか」

「いいよ。忙しい和くんがわざわざこうして素敵なお店を予約してエスコートしてくれるだけでありがたいから」
 
 最高級の松坂牛のコースにビールにワイン、かなりの食事代になるはずだ。
 和輝にとってはたいした金額ではないのかもしれないが、未来の感覚では誕生日プレゼントにしても贅沢だと思う。

 デザートは珍しい琵琶のゼリーだった。やわらかい果肉がゼリーに包まれている。

「口の中でつるんとして、とろける……美味しい」

「未来は昔から果物が好きだな。そういえば昔、庭の柿を取ろうと木に登ったことがあったな」
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