別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 しかし、ベッドで横になることが多くなっていき、入退院を繰り返していた。

「きっと、柿は体にいいって誰かに聞いて病気の母さんに食べさせようって思ってくれていたんだろうな」

 和輝は昔を懐かしむように目を細めた。会社での冷徹な雰囲気とはまるで違う、優しさを纏った表情に胸がキュッと締め付けられる。

(ああ、やっぱり私の中の和くんってこういうイメージなんだよね)

「でも、あの木は渋柿だったという落ちがついたんだよね」

「ああ、そうだったな」

 幼い未来が和輝の腕の中で泣いて騒いでいたら井部が飛んできて『あの柿はあのままだと美味しくないんですよ』と教えてくれた。その後は毎年干し柿にして振舞ってくれるようになった。

「それにしてもあれから20年近くたっているのか。未来も25歳か。もう大人だな」

「和くん知ってた? 私5年前からお酒飲める年齢なんですけど」

「たしかに大人じゃなければあんなペースでワインを飲んだりしないな」

 和輝は少しからかうように口の端をあげた。

「ふふ、そう意味ではかなりの大人だよ」

(良かった、最後にいつもみたいに和くんと楽しく話ができて)
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