別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 アルコールと和輝の色気に強制的に酔わされ、やがて思考の輪郭がぼやけていく感覚を覚えた。

「どうした未来、急におとなしくなったな」

「……うん。やっぱり、私はこういう雰囲気のいいお店は慣れないかな。なんだか緊張しちゃって」

 ふわふわとした思考で素直に答えた未来に和輝は「そうか」と手に持っていたグラスをテーブルに置いた、その時だった。

「失礼します」

 バーのフロア係の男性が跪いて和輝に声をかけた。

「ああ、ありがとう」

 フロア係の男性は和輝に何かを渡すと軽く会釈してからすぐに立ち去った。
 和輝は受け取ったそれを未来に差し出した。

「未来、改めて誕生日おめでとう」

 それは春を思わせるような優し気なピンクのバラやガーベラなどで作られたラウンドブーケだった。
 未来は目の前を広がるパステルカラーに驚きながら声を漏らす。 

「え、用意してくれてたの……?」

「誕生日プレゼントはいらなくても、花くらい受け取ってくれるだろう?」

「貰っていいの?……ありがとう」

 未来は受け取った花束をふわりと胸に抱く。
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