別れを決めたので、最後に愛をください～60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す～
　相手は父の勤め先の研究所の４０代半ばの女性。
　事務を担当しており１年ほど前から交際しているという。東京に戻る時に彼女を一緒に連れていきたいと言われた。

（だから私が最初にあのマンションに帰りたいって言ったとき、お父さんちょっと戸惑った声を出していたのね。あの時はっきり言ってくれればよかったのに。大事なことを寸前までいわないの、お父さんらしいけど）

『良かったね、お父さん』と何とか口にすることができたが、本当は素直に喜んでなどいなかった。

　父は東京に帰ってきて未来の知らない女性とあのマンションで暮らす。
　そう思うと自分でも驚く位の拒否感が込み上げた。

（仕事ばかりでお母さんにさみしい思いをさせたのに、今更再婚するなんて。私だって仕事の邪魔になるからって棄てたくせに）
　
　わかっている。父は自分を棄てたわけではない。
　猪瀬家にお世話になることになったとき、父はしかるべき挨拶をして頭を下げてくれたし、猪瀬家には定期的に連絡も入れてくれていた。

　生活費も支払ってくれたし、もちろん大学に行かせてくれたのも父だ。
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