別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 でも咄嗟に父の再婚を受け入れられない自分に気づき愕然とした。
 娘なのに父の幸せを喜べない醜い気持ちがあるなんて。

「未来、大丈夫か。気分でも悪くなったか?」

 黙り込んでしまった未来の顔を和輝が覗き込む。
 至近距離に抵抗がなくなっているのは自分が酔っているせいだろう。

「和くん……」

 未来は無意識に和輝の名前を呼んだ。

 父は再婚し新しい家庭を作る。和輝は見合いをし、猪瀬家では近い将来妻を迎えることになるだろう。

 いつかお父さんと暮らせたら。
 いつか和くん釣り合うような女性になりたい。

 そのいつかはいつまでたっても来なかったし、もう来ることはない。
 そう考えると急に全ての拠り所を無くした気持ちになる。

(どっちにも、どこにも私の居場所はないんだ)

「……もう一杯、飲んでもいい?」

 不安を感じたくない。醜い自分の心をこれ以上知りたくない。もっと酔ってしまいたかった。

 和輝は「あと一杯だけだからな」と追加でジンライムを頼んでくれた。

 それを飲み終わるころには、未来はいまだかつてなく酔っていた。

「未来、眠いのか?」

「ん……」

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