ウェディングドレスは深紅に染まる
バーラ伯爵家の次女であるエリナは、婚約者ライド伯爵家のヴァイオスを子供の頃から一途に想い続けていた。
「私、大きくなったらヴァイオス様のお嫁さんになるの!」
耳まで真っ赤なヴァイオスと腕を組み、無邪気にはしゃぐ少女は、誰の目から見てもかわいらしかった。
曇りのないサファイアの瞳に甘いストロベリーブロンドの髪をなびかせる美しい少女。
どんどん綺麗になっていく婚約者に、地味なブラウンの瞳と髪色の自分を恥じていたヴァイオスだったが、エリナはブラウンの瞳を覗き込み、愛おしそうに笑いかける。
「ヴァイオス様の落ち着いたブラウンの瞳は素敵です。わたくし大好きですわ」
エリナの太陽のような笑顔にヴァイオスは恥ずかしい気持ちながらも、幸せな気分に包まれていた。
時は流れ、少女は女性へと成長する。
エリナの美貌は女神かとみまがうほどで、国中の誰に聞いても同じ答えが返ってくる。
「エリナ・バーラが国一番の美女である」
そして、必ず続く言葉があった。
「エリナ・バーラの婚約者は、なんとも冴えない男らしい」
女神と平凡。
それが社交界で揶揄されている2人のあだ名だった。
「エリナ様はお可哀想ですわぁ」
「あんな地味……失礼、普通のヴァイオス様の婚約者だなんて……」
「いくら親が決めた結婚とはいえ……ねぇ?」
エリナと歳が近い令嬢達は、クスクスと小ばかにした笑いでヴァイオスの悪口を毎回言う。
エリナは満開に咲いた花のように、にっこり微笑んだ。
「あら? ヴァイオス様の素敵さをご存じないのですか? なんてお可哀想なんでしょう。いえ、そのまま、知らないでいただきたいわ。恋敵が増えては困りますから」
エリナの輝く笑顔にぼぉっと魅了されていた令嬢達を横目で見ては、ふふっと笑い、では、失礼。とその場を離れる。
失礼しちゃうわ!
ヴァイオス様の事、知らないくせに。
腹立ちまぎれに手に取ったワインをエリナはクイッと喉に流し込んだ。
あの日から、ヴァイオス様はわたくしの王子様ですもの。