ウェディングドレスは深紅に染まる
あの日……子供だったエリナは森で迷っていた。
風邪で寝込んでいるお母さまに……と夢中で花を摘んでいたら、帰り道がわからなくなってしまったのだ。
日が暮れてしまった。
敷地内とはいえ、暗くなった森の中は恐ろしく、聞いた事ないような動物の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
怖くなり、闇雲に走るが、一向に屋敷は見えてこない。
「あっ」
エリナは飛び出ていた木の根っこにつまずき、転んでしまう。
服はドロドロ、足は痛い。
へたり込み、痛みと恐怖と不安でぐずぐず泣き始めてしまった。
もう、帰れないんだわ。お父さま、お母さま、お姉さま……助けて。怖いよぉ。
「エリナ……嬢?」
自分の名を呼ぶ声に反応し、エリナが顔を上げると、先日、婚約者として紹介された少年……ヴァイオスがランプを片手に立っていた。
1度挨拶をした程度の相手だったが、ホッとし、ますます泣いてしまったエリナに、困ったヴァイオスはキョロキョロと何かを探す。
お目当てのものを見つけたのか、それを手に取り、エリナの前に差し出した。
「……んっ」
「……お花?」
そっぽをむきながら、早く受け取れよっと言わんばかりに1輪の花を強引に手渡すヴァイオスの行動は、エリナを驚かせる。
「お母さまのお花は摘みました」
転んでも手放さなかった花の束を片手に持ち、ヴァイオスに見せるエリナ。
「……がう」
「えっ?」
「違う。お前にだ」
ぶっきらぼうな口調のヴァイオスをエリナは無遠慮に見てしまい、ヴァイオスの顔はどんどん真っ赤になっていく。
「わたくしに……ですか?」
「……だから……もう……泣くなよ」
嬉しかった。
初めてお花をくれた人。
この人が私の未来の旦那様。
物語に出てくる王子様みたい。