ウェディングドレスは深紅に染まる
「ありがとうございます。お花、大好きなんです」
「……みんな、心配してる」
ヴァイオスはボソリとつぶやき、ふいにピィィと口笛を吹いた。
バサバサッと音がして、見上げたエリナは「きゃっ」と声を上げてしまう。
頭上で大きな羽を広げた鷹が旋回しながら、ヴァイオスの腕に降り立った。
「驚かなくていい。俺の相棒のビヨグルだ」
鷹のビヨグルは眼光鋭く、じっとエリナを見据えている。
「ビヨグル、エリナ嬢が無事だった事を知らせて来い……いけっ」
ヴァイオスが腕を高く上げるとビヨグルはキィィとひと鳴きし、高く高く飛び去っていく。
エリナは頼もしいヴァイオスの姿に見惚れていた。
私の旦那様、かっこいい……
「行くぞ」
へたり込んでいたエリナは、ヴァイオスが差し出した手につかまり、立ち上がったが、足首の痛みに耐えきれなかった。思わず、顔をしかめ「痛いっ」と口に出してしまい、顔から火が出そうになる。
令嬢が転んだなんて恥ずかしいわ……
「ケガ……したのか?」
「あ、いえ……」
ヴァイオスはエリナに背を向け、しゃがんだ。
「…………んっ」
えっ……これは……まさか……
家族以外の男の人に触れるのは、はしたないと育ってきたエリナは、おんぶなんて……と赤くなる。
「だ、だ、大丈夫です!!」
慌てて断り、スクッと立つも、ズキンと痛みが走り、また座り込んでしまった。
「……ほらっ! 痛いんだろ?」
「でも……家族以外の男の人に……なんて……」
エリナが躊躇していると、ヴァイオスはプイッと横を向き、つぶやく。
「……将来の家族だ」
胸にぽわっと明かりが灯ったような気がし、嬉しくて、泣きそうになったエリナは素直にヴァイオスの背中に身を預けた。
ヴァイオスもまだ少年。
たまにフラッとしながらも、大切な物を守るように慎重に慎重に歩く様子にエリナは幸せな気分になった。