雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
ただ私の身体から力なく垂れていた腕を上げ、創介さんの震える背中に回す。こんな風に、抱きしめられてその背中に手を回す時、いつもその背中の大きさを感じる。
愛しい人の背中だ。その背中は、いつ見てもドキドキとしてしまう。仕事に向かう創介さんの背中は、特別、かっこいい。
そんな創介さんを支えたいのに、安心して仕事に打ち込めるように支えなければならないのに。支えになれないならせめて、足枷にはならないでいたかった。
「おまえのことが心配だ」
創介さんに心配をかけないために、黙っていればいいのだと思っていた。でも、結局、こうして創介さんに知られてしまう。どこからともなくその耳にも入ること。
私が妻である限り、創介さんに心配をかけ続けて苦悩させてしまうのだ。創介さんが私を愛してくれればくれるほど、創介さんは苦しくなる。
創介さんが、もしも、丸菱のトップに立てなかったら――。
その時、私は自分を責めるだろうか。自分を責めたところで、そんなこと何の意味もない。
――結婚して知った現実を、もう一度よく考えて。
それは、とても厳しかった。でも、結婚して知った現実は厳しさだけじゃない。
創介さんの近くにいられた生活は、とても幸せで。創介さんと二人で暮らす生活は、想像していたよりもずっと楽しかった。
創介さんの寝顔を見られることも、
その日の始まりに一番に会えることも、
並んで歯を磨いたりすることも、
「ただいま」と言ってその日の終わりには私のところに帰って来てくれることも、
全部、結婚して知った嬉しさで。
だから、やっぱり、私は創介さんと一緒にいたい。
それが、たとえ、創介さんのためにならなくても――。
「愛してるんだ」
私も愛してます――。
「おまえを、守りたい」
私が言えることは――。
創介さん、ごめんなさい。