雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
4 欲しいものは、ただ一つ 【side;創介】
おもむろに瞼を開けると、薄暗かったはずの部屋が、いつの間にか暗闇に包まれているのに気付いた。
あのまま、寝てしまったのか――。
早朝に飛行機に飛び乗った。前の日の明け方からほとんど寝ていない身体は、重苦しい。
靄のかかった意識の中で、少しずつ自分のしたことが蘇って来る。
久しぶりに会えたというのに、自己嫌悪ばかりが込み上げて許せなくなる。
本当は、ただ雪野の身体を抱きしめて包み込んでやりたかった。あの細い背中で一人受け止めなければならなかった傷を、癒してやりたかった。
雪野が、俺を心配させるようなことを簡単に言えない性格だということも分かっていたつもりだ。
でも、以前の関係じゃない。結婚して夫婦になった今は、もっともっと俺に頼ってほしいと思った。
一刻も早く雪野の元に行き、嫌というほど甘えさせて思う存分弱音を吐かせてやりたかった。すべてを吐き出してくれなければ、雪野を苦しめるものを取り除いてやることはできない。
それなのに。
二週間ぶりに会った雪野は、一目見て憔悴しきっているのが分かるのに、俺には何も言ってはくれなかった。
それだけじゃない――。
理人に抱き締められていた。
それを目の当たりにして、正気を失って。傷付いている雪野に、あんなことを――。
雪野を守るのは、俺でありたい。他の男になど触れさせたくない。
そんなくだらない感情で、雪野を感情のままに抱いていた。
久しぶりに抱いた身体は、痛々しいほどに細くなっていた。哀しすぎて、最後の方は自分が何を言って何をしたのか、思い出せないほど。
ただ、雪野が俺から離れないように、何度も名前を呼んで、すがりつくように抱きしめて……。
「雪野――」
静かな部屋で、その名前を呼ぶ。
俺の腕できつく囲ったはずの身体は――。
「雪野……?」
何の重みも感じない腕に、ベッドから飛び起きる。
「雪野!」
広いベッドから、雪野の姿はあとかたもなく消えていた。