雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
雪野の行きそうなところを懸命に考えた。
エントランスを駆け抜けながら、必死に考える。自動ドアを抜けた途端に、ワイシャツをまとっただけの胸に冷たい風が突き刺さる。
どこへ向かうべきか分かってもいないのに、じっとなんてしていられない。考えるより前に出た足の向く方に走る。走りながらスマホを手にして。
雪野の友人は――。
誰一人連絡先を知らないことに気付く。職場にも親しい同僚がいたはずだ。それに、学生時代からの知り合いで、確か、アルバイト先で一緒だった律子という女性。
その人とは今でも、繋がっていたはず――。
でも、連絡先を知らない。
雪野、どこだ。どこにいる――?
俺から離れてどこに行ってしまったのか。
俺が、あんなことをしたから。もう、俺といるのが辛くなったのか。
ここは、雪野のような人間にとって、あまりに醜い世界で。
夜も深くなっているはずなのに、街の中は明かりと人で溢れている。
今、どこにいる? 何を思っている――?
金曜日の午前二時。雪野との電話で、雪野の様子が明らかに違うのに気付いた。何度か掛けても繋がらなくて、寝ることも出来ずにずっと雪野からの連絡を待っていたのに、ようやく聞いた声は酷く硬かった。
『仕事の後、講演会に呼んでくださって。それに出席して来たから、いつもより疲れちゃったのかも。だから、心配しないでください。創介さんももう寝てください――』
すべてが引っかかった。電話でなければ、その表情を見るとことが出来るのに。雪野に聞いても、早く話を終わらせようとするばかりで、ほとんど何も知り得なかった。
雪野は、悪いことほど詳しくは話さない。
そう言えば。幹部夫人の会の話もすぐに終わらせようとしたな――。
きっと、俺の知らない何かがある。そう思った。
その朝一番に、東京のオフィスに電話を掛けた。
神原なら、何か探る伝手があるだろう。本社幹部の秘書を勤めていた人間だ。それに、雪野が唯一出した名前『栗林』の秘書をして来た人間でもある。
遠い異国にいて、何もしてやれない歯がゆさにじりじりとしながら、神原の報告を待った。