雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
神原から報告の連絡が来たのは、その日の午後だった。
(ご依頼の件ですが……)
「何だ? 早く言え」
開口一番から口ごもる神原に苛立ちを隠せずに言葉を促すと、心を決めたように言葉を発した。
(丸菱本社の幹部婦人の会合で、奥様はお辛い状況にあったようです――)
そのあと神原からなされた報告に耳を疑った。
そうは言っても、皆いい大人だ。自分の半分も生きていないような年齢の人間を捕まえて、そんなことを――。
その状況に置かれた雪野を想像して胸が抉られた。
(会の主催者である栗林夫人は、奥様だけに、直前に案内状をお渡ししたようです。皆様がいらっしゃる前で、竹中常務婦人と共にこの会に出席されたことを咎められたみたいで……)
竹中常務――彼は栗林専務の腰巾着と言われている、栗林派の一人だ。
「それは、どういう意味だ?」
またも、神原が口籠る。
「いいから、神原が知った事実を全部話せ」
(……はい。本来、奥様の立場にいるはずだったのは宮川凛子さんだと。宮川さんとの縁談が破談になったせいで、丸菱は損失を被っている。ご自分の立場をわきまえるべきだと)
一体、何を言ってるんだ――?
神原から出る言葉すべてに、強烈な怒りと胸の痛みを感じた。
俺が大切に大切にしてきたものに、勝手に何をした――?
(そして、常務が出向になったのも、すべては奥様とのご結婚が原因だと……)
「なんだと?」
雪野に、そんなことを――。
そんなことを言われた雪野は、一体何を思うのか。想像するまでもない。
どれだけ責任を感じ、その胸を痛めるのか分かり切っていた。だから、そんな事情まで雪野には話さなかったのだ。
それを、他人から聞かされたら――。
やりきれなくて、額に手をやる。
(それから、講演会の日のことについてですが――)
更に、言いづらそうに神原が言った。