雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――悪い。また、暴走しそうになった。今日は、絶対手を出さないって決めてたんだ。昨日無理させたから、ゆっくり寝かせてやりたい」
雪野の身体を抱きくるめながらそう言うと、雪野がふっと笑い出した。
「そんなこと考えてくれていたんですか?」
俺の腕の中で雪野が笑うから、気恥ずかしさを誤魔化すように投げやりに言った。
「そうだよ。それなのに、おまえが挑発して来るから」
雪野が肩を震わせて笑うから、俺は余計に抱きしめる腕に力を込める。
「ごめんなさい。そんなこと気にする必要ないのに……」
笑いを堪えて囁く。
「気にするだろ。雪野にあまり無理はさせたくない」
無理をさせたくない――なんて言いながら、いつもいつもその身体を貪りまくっているというのに。でも、気持ちだけは持っているのだ。
「ありがとう、創介さん。大好き」
雪野が俺の背中をぎゅっと抱きしめる。
だから――。
「そういうことをするなって。もしかして、俺を試してるのか?」
さっきから、今日の雪野は俺の理性を吹き飛ばそうとすることばかり言うから、そんな気さえしてきた。
「そんなつもりないです。大好きだから、大好きって言ったの。じゃあ――」
無邪気にそんなことを言って、また俺を困らせる。
「今日は、創介さんにくっついて寝ます」
雪野が俺をベッドに押し倒し横たえた。そして俺の胸に顔を寄せて、抱きついて来る。
「……雪野」
頭を少し上げて雪野の様子をうかがうと、おそろしく幸せそうな表情で目を閉じていた。
人の気も知らないで――。
心の中で溜息を盛大に吐き、諦めたように雪野の身体を抱きしめた。
今日は、この拷問のような状況で夜を明かすことにしよう――。
そう思った矢先に、すぐに雪野から静かな寝息が聞こえて来た。
やはり、本当に疲れていたんだな……。
俺の腕でくるむように抱きしめる。
雪野の呼吸を感じながら思う。
誰かを守るということ。それは口にするのは簡単でも、実行するのはとてつもなく難しい。
雪野と結婚するとき、雪野の母親に誓ったことを改めて思い出す。俺は雪野の家族の思いも託されている。俺との結婚を許してくれた雪野の母親に、思いを返せて行けるだろうか。
もっと。もっともっと、雪野を幸せに――。
この先は、辛い涙より幸せな笑顔をたくさん見られるように。
ただ一人、愛しい人の笑顔を守っていきたい。