雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
5 あなたのためにできること
カレンダーは十二月に変わって、穏やかな毎日を過ごしていた。
リビングには、創介さんと一緒に飾ったクリスマスツリーがある。
クリスマスを目前にした週末の土曜日、昼下がりのリビングには冬の陽射しが暖かく届く。リビングの窓を磨きながら空を見上げた。冬の澄んだ空にきらきらと輝く太陽を見れば胸の奥がじんと疼く。
「――雪野」
そんな時、背後から創介さんの声が耳に届く。
「はい……」
振り返ると、タキシードを着終えた創介さんが立っていた。
振り返ったままで固まってしまう。創介さんはいつも、ピンと伸びた背筋がかっこいいけれど、いつも以上に素敵で、思わず見惚れてしまった。
この日、経済界のパーティーが行われる。恐ろしいほどにタキシードの正装姿が馴染んでいた。
「もう、準備出来たんですか? 早いですね」
ドキドキと胸が騒ぐ自分を誤魔化し、慌てて創介さんに声を掛けた。
結婚式の時の姿も、とんでもなく格好良かったけれど、今目の前にいる創介さんも、直視できないくらいの圧倒的なオーラを放つ。
ブラックのジャケットに白いポケットチーフが鮮やかで、黒い蝶ネクタイを付したパリっとしたシャツ……。
カフスボタンを付けている、その所作までもが美しくて。創介さんの短く整えられた黒髪と綺麗な形をした額のすっきりとした顔回りとで、タキシードが本当によく似合う。
この人の妻だということを、一瞬忘れてしまいそうになる。
「……確かに、まだかなり早い」
何かを考え込むような表情で、創介さんが呟いた。
確か、パーティーが始まるのは十九時だと聞いている。リビングの時計を見たら、まだ十六時だ。
「お父様のところに寄ってから行くの?」
不思議に思って創介さんを見上げた。でも、創介さんはやはり何かを考えているみたいで、返事はなかった。
「――やっぱり」
突然、創介さんがぞうきんを持っていた方の私の腕を掴んだ。
「おまえも、来い」
「え、ええっ?」
驚いて声をあげる私の腕を掴んだまま、創介さんがスマホを耳に当てる。
「――お父さん、俺です。急な変更で申し訳ないけど、直接会場に向いますので。じゃ」
その電話を切ると、また別のところに連絡しているようだった。電話を終えると、私に視線を戻した。