雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
あの日から一か月くらいは本当に大変だったのだ。
寝ても冷めても創介さんの残り香が部屋を満たしているみたいで。後ろめたくて落ち着かなくて、自分の部屋にいるのにバカみたいに緊張した。
そんなことをこんな時に思い出した自分が、たまらなく恥ずかしい。
「どうした、急に顔を赤くして」
「別に、赤くなんてしてないです。気のせいです」
誤魔化したのに、創介さんの身体が私に近付いて来る。これ以上間近で見られたら全部見透かされそうで、思わず身を引いた。
でも、その腕があっという間に私を捕らえる。
「一体、何を思い出したんだ?」
「別に、何も――っ」
耳たぶに触れる創介さんの唇が動くから、くすぐったいような疼くような、勝手に身体が震えてしまう。
「俺は思い出したよ。あの可愛らしい部屋でおまえを抱いたこと」
「そ、創介さんっ」
そんな私を創介さんがぎゅっと抱きしめる。
「――雪野」
「はい」
呼吸を整えながら創介さんの胸に身を預ける。
「おまえの家に行ったあの日。雪野を失うかもしれないという恐怖は、未だに鮮明に残ってる。雪野を失わずに済むなら俺はなんだってできるから。心配するな」
優しく諭すような声。低い声に優しさが加わる時の創介さんの声は、酷く甘い。
私の不安をきっと感じ取ったのだ。
だから――。
「はい。私には創介さんがいるし、創介さんには私がいる。もう一人じゃないんですよね」
そう思えば、力が湧いて来る。