雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
それからは、両家の顔合わせに、式や二人で暮らす準備に追われて、季節の変化を感じ取る余裕もなく日々が過ぎて行った。
二月にプロポーズされてから八ヶ月。必死に覚悟を確かなものにして。そして、この日を迎えた。
十月の晴れ渡った青空の下――。
創介さんと私にとって大事な一日になる。
悲壮感に満ちた表情で鏡の前にいる。大きな鏡の付いた煌びやかなドレッサーと今にも逃げ出しそうな私の顔は、哀しいほどに対照的で余計に追い詰められていく。
「はい、これで完成です。とってもお綺麗ですよ?」
メイク担当の女性が、にこやかな笑顔を私に向けてくれる。
「そうですか……?」
そう言われてもう一度鏡を覗き込んでも、強張った表情は変わらない。
「あとは、花嫁様の笑顔ですよ! 笑顔に勝るメイクはありませんからね」
そんなことを言われれば、余計に焦ってしまう。
前髪を斜めに流し、夜会巻きと呼ばれるアップにしたヘアスタイルに豪華なティアラ。
完全に顔が負けてしまっている。
「――では、お時間になったら呼びにまいりますので、それまでゆっくりしていてくださいね」
あまりに肩を強張らせ緊張感に満ちた私を労わるように微笑んで、メイク担当の女性は部屋を出て行った。
ドアが閉じる音が耳に届いたと同時に、大きく溜息を吐く。
しっかりしないと――。
創介さんに恥をかかせるわけにはいかない。そう思えば思うほど、緊張を呼び寄せてしまう。
新婦の控室であるこの部屋には、姿見が置いてある。そこに、ウエディングドレス姿の自分が映る。
あまりに華やかなものは私には似合わない気がして、なるべくシンプルなものを選んだ。いくつか私が選んだ中から、最後は創介さんが決めてくれた。
――雪野のイメージにぴったりだ。
そう言ってくれたこのドレスは、デコルテと長袖の部分がレースになっているAラインのドレスだ。露出を抑えたクラシカルな雰囲気がなんてことない私を底上げしてくれているのに、こんなに引きつった表情のままでは台無しだ。
この日を迎えるまで、何度も自分に言い聞かせて来た。
この結婚式は、創介さんがこれから仕事をしていく上での大切な場だということ。
創介さんが、私への気遣いで招待客をかなり絞ってくれたのは知っている。
それでも、親族を始めとして、本社の役員を筆頭に関連会社の幹部、政財界の著名人……。
ニュースや新聞で見聞きした名前もたくさんある。そんなところに出て行かなければならない。
おかしな行動をしてしまわないか。不安のあまり、大失敗をしてしまわないか――。
そんな悲観的なことばかりを想像してしまって、昨晩もほとんど眠ることが出来なかった。