雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
今日から、創介さんの奥さんとしての人生が始まる。
鏡に映る不安げな自分を、なんとか奮い立たせる。
――トントン。
ドアをノックする音がした。
「はい」
「ご新郎様がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいですか?」
先ほどまでメイクを担当してくれていた人の声がした。
「どうぞ」
鏡からドアの方へと視線を移す。
それと同時にドアが開き、創介さんの姿が見えた。
着ていた黒いフロックコートは、その体型にも雰囲気にも馴染んでまるで違和感がない。創介さんは、本当に正装がよく似合う。
「――雪野」
つい見惚れてしまっていた私の元に創介さんが近付いて来る。ドアが閉じて、この控室に二人だけになった。
「……綺麗だ」
創介さんがまじまじと私を見るから、つい目を伏せてしまった。
「なんだか、衣装に負けているような気がして落ち着かないんです」
「バカだな」
そう呟いたかと思ったら、創介さんが私の手を取った。
「誰の目にも触れさせたくないと思うほど綺麗だ。結婚式なんてやめてしまいたくなる」
冗談を言っているのかと思ったら、思いのほかその目が真剣で、私はまたも目を伏せる。
「――手、震えてるな」
「すみません。どうしても緊張しちゃって」
私の手のひらを、創介さんの両手が包みこむ。
「今日、俺の隣に立つのが雪野で、本当に嬉しいし誇らしく思ってる」
もしかしたら、創介さんの隣に立つのは私ではなかったかもしれない――。
二年前のことを思い出す。
「俺を選んでくれてありがとう」
大切なものを扱うように私の手を取って、創介さんが私を見つめた。
「――俺の元に、現れてくれてありがとう」
創介さんの言葉に胸が震える。
「お時間です」
ドアの向こうから係の人の声がした。
「雪野、行くぞ」
創介さんが、私の手をそのまま自分の腕に絡めさせる。
「はい」
今度はしっかりと創介さんの目を見つめた。そして真っ直ぐに前を向く。
大丈夫――。
もう、不安や緊張だけじゃない。最高の笑顔を創介さんに向けたい。
しっかりと足を踏み出した。