雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――おはよう、ございます」
隣に眠る創介さんが、ゆっくりと瞼を開ける。
「おはよう」
まどろんだ瞳のまま、創介さんが私を抱き寄せた。
「身体、大丈夫か?」
「……はい」
バスローブ合わせ目から見える胸に頬を寄せると、ほのかに香るボディソープの匂いに包まれる。
「昨日の雪野は、最高にエロかったな」
創介さんの指が私の髪を梳きながら囁いた。
そんな言葉に返事なんて出来るわけない。
「――なのに、朝になると、魔法が解けたみたいに、恥ずかしがり屋の雪野に戻る。二人の雪野と過ごしているみたいだな」
そう言って創介さんが笑った。
「ご、めんなさい……」
本当にその通りだ。
どうしてあんな風に全く別の人格が出て来るのだろうと、冷静に考えると自分でだって理解できない。
「謝ることなんてない。俺にとっては、嬉しいことだ」
寝起きの創介さんの、前髪がおろされたラフな姿。私だけが見ることのできるその姿に、いつも懲りずにドキドキとする。
「雪野が二人なんて、最高じゃないか。どちらの雪野も可愛くてたまらない」
甘い声と甘い甘い瞳が、私に注がれる。
「おまえは、どれだけ俺を狂わせれば気が済むんだ?」
「狂わせているつもりなんて、ありません」
朝の明るい光が部屋いっぱいに広がる。大好きな人とまどろむ朝は、最高に幸せな時間だ。
「それは、嘘だ。昨日のおまえは、明らかに――」
「もう、昨日の話はやめてください!」
甘えるように創介さんの胸を叩く。
この人の胸の中にいると、包み込まれている安心感と愛しさについつい甘えてしまいたくなるのだ。
「分かった、分かった。俺の中でだけ、思い出すことにしよう」
「思い出すのも、ダメ」
「それは、無理だ」
目と目を合わせて、笑い合って。
幸せ過ぎて、怖いくらい。
人は幸せ過ぎると怖くなると言うけれど、本当のことだ。幸せの向こうにあるものをつい想像してしまうからだろうか。
それでも、このひと時は、嘘でも夢でもない。私の目の前には、大切な人がいる。