雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
栗林専務のお宅で行われた会合に出席していた方々も、皆参加してくれていた。
副社長夫人に挨拶を済ませると、まず栗林専務の奥様の元に出向いた。
「本日はいらしてくださってありがとうございます」
「――え、ええ」
私の顔を見た瞬間に、その表情を曇らせたのが分かる。おそらくこの場に来ることは、決して楽しいことではなかったはずだ。
「奥様が、こうして来てくださったことが、何より私の励みになります」
「……え?」
奥様が訝し気に私を見つめる。
「――奥様が私におっしゃったこと。おっしゃらなければならなかった理由は、私にあります」
あんな風に、”あなたではだめだ”と専務の奥様に言わせたのは、私が原因だということは誤魔化しようのない事実だ。
「私の生まれた家が、皆様が懸命に支えている丸菱にとって何のメリットもない家柄だということは隠しようもない事実です。
私のような人間では不安になるのも当然ですし苦言を呈したくなる。でも、それはすべて、奥様が丸菱を思っているからこそ」
奥様はただ黙って私を見ていた。
「私の生まれを変えることはできません。でも、丸菱を支える方法、力になれる方法は私にも何かあるのではないかと思っています。
ですから、ぜひ、奥様にもお知恵を貸していただけたら。いつか、同じ未来を見られたら、私はそれが一番嬉しいです」
この言葉が正しいのか間違っているのか。
私のような人間には分からない。でも、それは、私の心からの思いだった。飾らない言葉で、本当の言葉を言いたいと思った。
誰が社長職に就くのか、誰がトップになるのか。
そういう小さな目的は異にしているのかもしれない。
でもおそらく、幹部という立場に就いているからには、会社を繁栄させたいという気持ちは同じはずだ。
その未来を一緒に見ることはできるはず。
誰より、創介さんはきっとそう思っている。