雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――あなたって、本当のバカなのかしら? それとも、したたかなのかしら?」
そう呟くと、奥様が口元に指をやり苦笑した。でも、奥様から初めてそんな微笑みを向けられた気がする。
「まあ、もうどちらでもいいわね。なんだか、バカバカしくなってきちゃったから」
今度は私が黙って見ている番だった。
「十分理解させられた。あなたがこの家にどれだけ乞われてやって来たのか。榊家がそんな風に扱っているんですもの、それだけの人だということよね? それが、もう十分、立派な家柄に匹敵するんじゃないかしら?」
「奥様……」
苦笑だった笑みが、奥様の本当の笑顔に変わる。
「……あ、ありがとうございます」
その言葉を深く理解する前に、胸に沁みた。
「――でも。あなたと完全に仲間になれるほど、甘い世界じゃないのよ? 仲良しこよしのお友だちグループじゃないんだから。皆が同士でありライバル」
「分かっています」
でも、そう言ってくださるその言葉こそが、私へのアドバイス――。
そう思えた。
「だから、あなたはライバルね」
「は、はいっ!」
「ライバルだと言われて、そんなに嬉しそうな顔をするなんて」
ライバル――それは、どこか私を一人の人間として認めてくれたような気がして。泣き笑いのような顔を奥様に見せてしまった。
以前は叶わなかった、いろんな方と顔を突き合わせて話をするという希望が叶って、私にとってとても大事な一日になった。
見ているだけでは分からない。話してみて、相手を知る。そして、自分を知ってもらえる。
ここにいる方々の中で、私が一番ひよっこで新米なのだ。私にできることは、ただ努力すること。
それだけだ。