雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「亡くなったお母様は、どんな気持ちで見ていたんだろうね……」
私は会ったことも話したこともない方だ。想像することしか出来ない。
「それを考えることが、俺にとって一番辛いことだった。行きつくところまで行きついて、汚れた人間に成り下がって。そんな時に思い出すのは母親の優しい笑顔で。もう思い出の中の笑顔さえ直視できなかったからな」
創介さんのヒリヒリとした悲しい笑みに、胸がぎゅっと締め付けられる。
創介さんが以前、私に話してくれた。自分のしたことを後悔していると。
後悔しているということは、それがずっとその心に重く横たわっているということで。そう考えれば、今のお母様も創介さんも、同じ苦しみを抱き続けているのかもしれない。
「あの頃は考えることが怖くて、敢えて考えないようにしていた。でも、本当は分かっていた。母はきっと、父とあの人をいつまでも憎んだりはしていないんだろうなと。むしろ、変わり果てた俺を見て、悲しんでいるだろうなって――」
創介さんの心の奥底に居座り続ける、悔いと罪の意識。本当は触れずにいてあげた方がいいのかもしれない。
でも、それではずっと同じ場所に立ち止まったままになる。
「そう思ってしまえば、その時俺を支えていたものが失われると思った。母の仇だと自分を正当化して寂しさを紛らわせていた自分が、許せなくなる――。本当に、愚かだった」
私の髪に触れる創介さんの手のひらに力が込められる。
「母親と俺は全然違う人間だ。母親の本当の心の中など分かりもしないのに、勝手に俺が代弁して人を傷付けていいわけなんかないよな」
「創介さんは? 創介さんは、今はもう許せているんですか?」
苦し気に揺れる創介さんの瞳をじっと見つめる。
「――二十二年だ。あの人も、そんなにも長い時間苦しんで来た。俺が苦しませて来たんだ。許せないだなんて、もう俺に言う資格はない。それを言っていいのは、俺の本当の母親だけだろう」
創介さんが切なげに微笑んで私を見返した。