雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「……お父様に聞いたんだけどね」
書斎で、私は最後に聞いたのだ。
『亡くなられた創介さんのお母様は、どんな人でしたか』と。
「そうしたら、心が本当に綺麗な人だったと、おっしゃってた」
「お父さんが……?」
創介さんの目が見開かれる。
「それなのに、結局ずっと辛く当たったままだったって。親に決められた相手で、ただそれに反発する気持ちばかりが先に立って、一人の人間として向き合ってやれなかった。そうおっしゃってた」
そう聞いた時のお父様の表情は、言葉で説明が出来ない複雑なもので。でも、それがすべてを表していたような気がした。
反発するがために、愛そうとしなかった。
でも、どんなに受け入れられなくても、一緒に暮らしていれば何かを感じ取るはずで。
お母様の人となりを知っても、お母様を前にすればどうしても反発せざるを得なかった。
「創介さんの記憶は、美化でもなんでもない。本当に優しいお母様だったんですね」
創介さんの胸に顔を埋める。そして、その身体を抱きしめた。
「俺は……」
抱き締めた身体が一瞬強張ったのに気付く。でも、すぐに創介さんの腕に包まれた。
「本当に幸せな男だな」
私の背中にある手のひらに、力が込められる。
「本当に好きな人と、こうして結婚できた。心置きなくおまえを愛せるんだから」
「私も幸せです。本当に……」
改めてそのことを実感する。創介さんのお母様の過去を知って、そう思わずにはいられなかった。
愛する人にいつでも触れられる。そして、愛する人が心から私を愛してくれている。それが、どれだけ特別で奇跡みたいなものなのか。忘れないでいたい。