雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「私も、創介さんのお母様に会ってみたかったな……」
優しく抱きしめられて、思わずそう零す。
「俺も会わせてみたかった。絶対に、雪野を好きになるはずだ」
どこか哀しみを帯びた優しい声に、胸の奥が切なく疼く。
「会うことはできないけど、でも、きっと私たちを見守ってくださっているよね?」
「そうだな。何もかも全部分かってくれているかもしれない……」
創介さんの胸から顔を上げその目を見つめると、包み込むような眼差しで見つめ返してくれていた。
「うん。だから、大丈夫。今の創介さんを見ていれば、お母様もきっと安心してる。素敵な人になったって、思ってくれてると思います」
「雪野……」
「絶対、喜んでくれてる」
本当に、創介さんは素敵な人です――。
心の中で、会ったこともないお母様に伝える。もう一度創介さんを抱きしめた。
大丈夫。きっと、いつか、その心の重荷を下ろせる日が来る――。
「創介さん」
「ん?」
私の髪を撫でてくれる。胸に当てた耳から、創介さんの規則正しい鼓動が聞こえる。
「創介さんが、今のお母様に対して許せないという感情はもう持っていないと、いつかお母様に伝えてもいい……?」
その鼓動を聞きながら、じっとする。
鼓動を聞きながら創介さんの声を待つ。
それを、今のお母様が知ることが出来たらどれだけ救われるだろう。
そして何より、そうすることで創介さん自身も自分を許せるようになるんじゃないか――。
そんな気がして。
でも、誰より創介さんの気持ちを大事にしたい。
創介さんは、すべて自分の弱さからだと言ったけれど。自分さえも許してしまったら、本当のお母様を孤独にしてしまうのではないかという思いが根底にあったはず。純粋に母親を思う子の気持ちもあったはずだ。
だから、ただじっと、創介さんの答えを待っていた。
「――いいよ。おまえが、そうしたいなら」
静かに響くその声の後、優しく私の肩を抱いた。
「ありがとう、ございます」
何年もの間、創介さんの家族は苦しい時間を過ごして来た。
いつか、暗闇から抜け出ることが出来たら――。
長い年月を経たからこそ感情も変化していく。
深い苦しみほど長い時間が必要で。それだけの時間を費やして来た。
この先いつか。今ここにいるお母様と向き合って、私が創介さんの思いを伝えられたら。
お母様と創介さん、二人が直接言葉を交わさなくても、その心を知るだけで救われるということがあるはずだ。
創介さんの本当のお母様に、思いを馳せる。
創介さんのために、そうさてください――。
そっと、心の中で祈った。