雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「もう一つ。創介さんに話がある」
創介さんの胸から身体を離し、正座をして向かい合う。
「どうした、改まって。なんだか今日はいろいろあるな」
創介さんが苦笑する。
「私、三月末で、仕事を辞めることにしました」
「……えっ?」
小さくそう声を発した後、創介さんは言葉を失う。ただ、驚いたように私を見つめているだけだった。
どうするべきか。自分は、どうしたいのか。
創介さんと結婚してから、ずっと考えていた。そして、自分自身で決めて自分で答えを出した。
「突然どうして。そんなこと一言も言っていなかったじゃないか。仕事にやりがいもあるって……。まさか、誰かから何か――」
「違います! 全部自分で決めたことです」
創介さんの問いにすぐに否定をした。
「ごめんなさい、相談もしないで勝手に決めて。でも、仕事のことは自分で決めたかった。自分の心に正直に、自分の心の声だけを聞いて結論を出したかったんです」
真っ直ぐに創介さんを見つめる。
「だから、この答えが私が本当に望んでいることです」
相談してしまったら、きっと創介さんは私の心を慮っただろう。それでも私が辞めると言えば、自分と結婚したせいで諦めさせることになると考えてしまう。
それは事実とは違う。
創介さんのために諦めるんじゃない。私が、そうしたいのだ。
それを分かってもらいたかった。そのために、すべてを自分で決めてから伝えたかった。
「私が決めたことを、きっと創介さんは尊重してくれる。そう思えたから、自分で考え決めました」
「もちろん、雪野が決めて望んだことなら何も言わない。でも、本当におまえはそれで後悔しないのか?」
創介さんの手のひらにそっと手を重ねた。
「私は、創介さんを全力で支えたい。創介さんのためにするんじゃない。私がそうやって生きて行きたいんです」
創介さんと結婚するということ――。
その時点で、既に私は決断していたんだ。
創介さんが私を何よりも一番大事に考えてくれる。その思いに応えたい。私も同じように、創介さんのことを一番に考えたい。
「創介さんが見る未来を一緒に目指す。十分、ワクワクすることですよ! こんなにやりがいのある仕事ありますか?」
私がここにいる意味を、自分の誇りにしたい。そう思える人に出会えたことの喜びを、私の人生をかけて噛みしめたい。
「雪野……。ありがとう」
「ううん。私の方こそ、わがままを聞いてくれて、ありがとう」
私が、あなたのためにできること――。
それは、何より私自身が幸せになることだ。