雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
都内の病院のエントランスに滑り込むと、タクシーから飛び出した。自動ドアが開く間ももどかしく、隙間に入り込むように病院内に足を踏み入れる。受付で名前を告げると、病室番号を告げられた。
病室へと向かうエレベーターの中、心の中がいろんな仮定がせめぎ合ってじっとしていられない。首元のネクタイを乱暴に緩める。
頼むから。頼むから――。
普段、神なんて存在について考えたこともなければ何かを祈ったこともないけれど、どうしても祈らずにはいられなかった。無機質な廊下を走り、指示された病室に飛び込んだ。
「雪野っ!」
「お、お義兄さん……っ!」
ベッド脇の椅子に腰かけていた人影が立ち上がる。
「優太、君……」
そこにいたのは、雪野の弟、優太君だった。
「連絡くれたの、君だったのか……」
乱れた呼吸のまま、彼の前へと駆け寄る。
「すみません。俺、お義兄さんの携帯番号知らなくて。それに、会社に直接電話した方が確実かと思って」
「いや、いいんだ。それより、雪野は? 雪野に何が――雪野……!」
雪野は目を閉じていて、真っ直ぐに姿勢よくベッドに横たわっていた。白いベッドの掛け布団の膨らみが異様に小さく見えて、胸が締め付けられる。その青白い顔が記憶にある母の顔と同じもので、ここまで必死に抑えて来た感情が溢れ出し情けないほどに取り乱す。
「雪野! 雪野――」
「お義兄さん! 今、姉ちゃん寝てます。大丈夫ですから」
優太君が俺の腕を掴んだ。
「雪野は一体――」
「詳しいことは、あとで医者が教えてくれると思いますが、どうやら貧血みたいです。今日、お昼、ちょうど俺の会社の近くに来たからって、姉ちゃんと一緒に昼を食べていて。そこで突然倒れて。俺、とにかくびっくりして、すぐに病院に運んで。何も状況が分からないままお義兄さんのところに電話してしまって……」
「じゃ、じゃあ、雪野は、大丈夫なんだな……?」
縋るように、祈るように優太君の目を見る。