雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
病室に戻ると、雪野は既に目を覚ましていた。
「心配かけてごめんね。優太が大袈裟で。創介さんの会社にまで電話しちゃうなんて」
「そりゃあ、目の前で倒れられたりしたら誰だって焦るだろうが」
雪野の顔色はまだ青白いままだった。それでも寝ていた雪野と全然違って見えたのは、その表情がこれまで見たことがないほどにきらきらと輝いていたから。
「優太君を責めるな。大袈裟なんかじゃないだろ。雪野は倒れたんだぞ」
どうしても自分の表情が硬くなる。
「創介さん……?」
俺の様子に何かを感じたのか、雪野が俺を見上げた。
「ああ、いや。とにかく、大事に至らなくてよかった」
この口から妊娠した事実についてどうしても話題に出せない。俺がもう医者から聞いたと雪野だって分かっているはずだ。
真っ先に話題にしないのは、不自然になるのに……。
「創介さん、あのね。もう聞いたかもしれないけど」
ベッド脇の椅子に腰かけると、雪野が俺の方に身体を向けて真っ直ぐに見つめて来た。その表情に、胸がきりきりと痛む。嬉しさを隠し切れなくて、目に口に表情に、滲み出る喜び。それが分かるから、余計にこの表情は強張って行く。
「赤ちゃんできたんだって。凄く嬉しくて。知ってすぐに創介さんに言えて良かった。そう考えたら優太が連絡してくれてよかったのかな。私、創介さんが帰って来るのを家でずっと待ってるなんて、耐えられなかったかも」
いつも以上に饒舌で、はしゃいでいる。
「創介さんと私の赤ちゃん、早くできたらいいなって思っていたから。もう嬉しくて……」
優しい表情をして、幸せそうに微笑んで。雪野が、まだ少しの膨らみもない腹をそっと撫でる。