雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
二人で寝るには十分広いクイーンサイズのベッド。結局真ん中で寄り添うように寝ているのだから、シングルベッドを買っても一緒だったんじゃないかと思う。
ベッドを買う時にシングルベッドを探していたら、雪野が慌てたように俺を引き留めた。
『シングルを買おうって言っていたの、本気だったんですか?』
まさかそんなはずはないと言わんばかりの目に、真顔で答えた。
『そうだと言っただろ』
そうしたら、雪野が本気で反対して来たのだ。
『ダメです。毎日仕事で疲れて帰ってきても、それじゃあゆっくり眠れません! 睡眠は大事なんですよ?』
『でもだ。嫌でもおまえが俺にくっついて来るという状況は捨てがたい』
『そんなこと言うなら、シングル二つ買いましょう。それならいいですよ』
俺の論点をさらりとずらし、雪野が訴える。
『二つ? 俺の意図が分かってるのか? 別々のベッドで寝るなんて、その意図に反するだろ』
『だったら、大きめのベッドを買いましょう。創介さんは背も高いし、絶対に大きさに余裕があった方がいいです。クイーンサイズとか……』
いや、待て――。
シングル二つというのも実はいい選択かもしれない。
二つ買っておいて、寝る時はどちらかで寝てしまえばいい。そうしたら狭いベッドで二人で寝るという目的が達成できる。
『創介さん』
でも。もし、喧嘩でもしたらどうなる?
ベッドが二つある以上、別々に寝ようということになってしまうかもしれないじゃないか――。
それだったら、最初から一つの方が安心だ。何があってもそのベッドで寝なければならなくなる。
この先のことを考えれば、ベッドは別れていない方がいいか……。
ああ、悩ましいな。仕事ではこんなに決断に時間をかけたことなんてない。
『創介さん! 聞いてますか?』
雪野が俺の腕をゆすり、顔を覗き込んで来た。
『あ、ああ。なんだ?』
『やっぱり、ベッドは一つにして大きめのを買いませんか?』
雪野が俺を見上げて来る。
『どうしてそう思う?』
『……やっぱり広さには余裕があった方がいいのと――』
そこで頬を赤くした。
『私が、二人で一つのベッドに寝たい、から……です』
恥ずかしそうに眼を伏せながら、小さな声で雪野が言う。
そんな顔でそんなことを言いやがって――。
ここにはちょうどいくつもベッドがある。店でなければ、速攻押し倒しているところだ。
『雪野の言う通りにしよう』
俺も単純なもので、雪野のその言葉で決めてしまった。