雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「見た目も触った感じもまだ何も変化はないのに、確かにここに赤ちゃんがいるんだよね……。なんだか不思議。創介さんは、どんな気分? もう、私は今からドキドキします」
俺は――。
青白い顔をした、死ぬ間際の母親の顔。
消え行く命の、その瞬間を見た。
さっきの眠る雪野の顔は、まさにあの時の顔みたいで。
「創介さん……?」
明るくはしゃいだ声が翳る。慌てて、笑みを作った。
「あ、ああ、俺も不思議な気分だ。ただ、男だからかな、実感がわかない」
「そっか……。そうですよね。私も全然実感なんか湧かないんだけど、でも、どうしてかな。勝手に心が準備しちゃう感じ。もう待ち遠しいの。早く、会いたいな」
「そうだな……」
強張る顔の口角を必死に上げて。でも、雪野の顔を真っ直ぐに見られない。
さきほど告げられた医者の言葉が脳内で響く。
――ただでさえ妊娠中というのは貧血になりやすい状態にあります。
奥様のように妊娠前から貧血気味だと、貧血症状が特に強く現れることがあります。今回倒れられたのも、そのためでしょう。
この先妊娠経過が進むにつれて、重度の貧血症状を引き起こすことがありますので注意が必要です。注意深く見て行きましょう。
注意深くって、注意深く見れば、それで済む話なのか?
もしものことがあったら、どうする?
もしもがないと、言い切れるのか――?
「今日は大事をとって、一日入院しろ。医者もそう言ってる」
「そんな、入院だなんて。私は大丈夫です。一緒に帰ります――」
「大丈夫だって? 何がどう、大丈夫なんだ! また倒れたらどうする?」
ベッドから這い出ようとした雪野に、つい声を荒げてしまった。
「創介さん……」
目を見開いて俺を見つめる雪野の顔が、そこにあった。