雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「……貧血も甘く見ると大変だってことだ。とにかく、今日はちゃんとここにいろ」
雪野の目を見ていられなくて、顔を逸らす。
「そうだよ、姉ちゃん。倒れるのを見る方は、結構怖いものなんだからな」
優太君が、張り詰めた雰囲気を察したかのように和ませようとしてくれるのが分かった。
「……分かりました、そうします」
俯く雪野の頭が視界の端に入る。
「――創介さん、仕事の途中で来てくれたんですよね。あとは寝ているだけだし、仕事に戻って」
それでも、明るく振舞うように雪野がそう言った。
「全部、放り出して来てしまったからな。一度社に戻るよ。優太君も、仕事があるだろう? 送って行こう」
「え? いや――」
「そうよ。優太も新入社員なのにサボっちゃだめ。午後は出社しないとって言っていたじゃない。病院にいるんだし、私は大丈夫だから」
雪野がどこか歪んだ笑顔を向けた。
「――じゃあ、お願いします」
優太君が俺にそう言って頭を下げた。
「雪野、また後で来る――」
「創介さんっ」
病室の扉に手を掛けた時、雪野の呼び止める声がした。振り向いた先にあったのは、笑顔ではなく不安げな顔だった。
「私、ちゃんと静かに寝てます」
「……ああ」
俺が怒ってしまったから、そんなことを言うのだろうか。また、チクチクと胸が痛む。