雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「来てくれるなんて、嬉しいわ」
80を過ぎた祖母はかなり年老いてしまった。以前の、威厳や気の強さは、今はあまり見られない。
「雪野さんは? あなた、一人?」
「ああ。今日は一人です」
祖父母の部屋に入り、ソファに腰掛けた。祖父の方は、この部屋にはいないようだ。
「おじい様は……」
「珍しく、出かけているの。昔の仕事関係の人と会食みたい」
「そうなんだ」
話の内容からしても、それは都合がいい。
「――それにしても、どうしたの。わざわざ私の顔だけ見に来たってわけじゃないんでしょう?」
「さすがおばあ様だ。わかった?」
「でなきゃ、雪野さんを置いて創介が一人で来るわけないじゃない」
「鋭いな」
そう笑ったけれど、すぐに笑みも顔から消える。
「一つ、教えてもらいたいことがあって」
「教えてもらいたいこと?」
使用人が運んで来た紅茶がテーブルに置かれる。その使用人が部屋を出て行った後、正面に座る祖母を見据えた。
「亡くなった母親が病気がちになった理由。そろそろ、教えてもらってもいい気がして。これまではずっと濁されて来た。でも、俺ももういい大人だ。何を聞いても、狼狽えたりもしないよ」
遠い昔に微かな記憶がある。祖母が誰かと話していたのを、立ち聞きしてしまったのだ。
”千賀子さんが体調を崩すようになったのって、サンゴの回復が遅かったのもあるのかもしれないわね”
その時は”サンゴ”の意味が分からなかった。でも、その後それが”産後”だと分かって。祖母に聞いたこともあったけれど、これまでずっと答えを誤魔化されて来た。
「どうしたの、そんなこと突然」
どうしても知りたくなって、こんなところまでやって来て。今、それを聞いて、俺はどうしようと言うのだろう。
「本当のことを知りたくなった。ただそれだけですよ」
俺がそう言うと、祖母が少し考えるようにしてからふっと息を吐いた。
「まあ、そうね。あなたももう分別のある立派な大人で、結婚して幸せになっているんだし。無意味に自分を責めたりしないわね」
そう前置きをしてから祖母が語り始めた。