雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 そんなことを思い出して一人笑ってしまう。

 広いベッドの真ん中で雪野を間近に感じながら横たわっている。それだけで、恐ろしいほどに幸せだ。結婚して夫婦になったのだと実感させてくれる。

 いつまで見ていても飽きない。雪野の顔は、ずっと見ていられる。

なんで、こんなにも愛おしいと思うのか、自分でも分からない。

理屈じゃない。身体が勝手にそう思う。そんな感覚だった。

 俺だって、さすがに結婚式に披露宴とかなり疲れていた。それなのに、ほとんど寝ることなく隣にあるこの可愛い顔を見続けている。

何年経っても、いや、時間と共に雪野に嵌まっている自信がある。

 木製のブラインドの隙間から微かに陽の光を感じた。

もう、朝になったんだな――。

結局夜を明かしてしまったみたいだ。

――カチッ。

ベッドヘッドのところに置いてある目覚まし時計から、微かな音がした。

この音は――。

目覚まし時計が合わせた時間に鳴る直前にする音だ。確認するために目覚まし時計を手に取ると、六時にアラームがセットされていた。

いつの間に目覚ましをセットしていたんだ?

昨晩は、疲れから、お互いすぐにベッドに入った。

次の日も仕事は休みだ。ゆっくり寝ればいいと言ってあったのに、こんなに早く起きようとしていたのだ。

 その目覚まし時計が鳴る直前にアラームを解除した。

「ゆっくり寝てろ……」

そう呟いて、熟睡している雪野の頬に触れた。

それから四時間後――。

「――あれ?」

ようやく雪野が目を覚ました。

「あ、あの……」

目を擦るその仕草も無性に可愛い。

「創介さん、もう目が覚めていたんですか?」
「まあな。雪野はゆっくり寝られたか?」

ゆっくりと身体を起こす雪野を見上げる。化粧をしていない雪野の顔は一気に幼くなる。それがまた俺の邪な心を刺激する。

「はい。ものすごくしっかり寝た気がして……えっ?」

ゆっくりだった雪野の動きが急に機敏になる。

「え、えっ! あれ、私、目覚まし――」

掛布団を跳ね飛ばして目覚まし時計を掴んでいた。

「どうして、こんな時間? ちゃんと目覚まし合わせたはずなのに!」

青ざめている雪野の頬にいきなりキスをした。

「おはよう」
「え? あ、はい。おはようございます」

目をぱちくりとさせて俺を見上げている。

「今日くらいゆっくり寝たっていいんだ。俺が目覚まし止めたんだよ」
「創介さんが? 私、朝ご飯作ろうと思って……」

そんなことだろうと思った。

「初日から、こんな――」

思った以上に落ち込み始めた雪野に、今度は俺が焦る。

「そんなに気を落とすな。昨日どれだけ疲れたか分かってる。今日は、疲れを取るための日だ。ゆっくり過ごそう」

雪野の目を見つめてそう言うと、やっと雪野が少し微笑んだ。

「すみません。ありがとう……」

雪野の頭を撫で、肩を抱く。

「飯は適当に食べに行こう。この時間なら、朝と昼を一緒にしてもいいな。近くにいい店がある」

「じゃあ、夜ごはんは頑張ります!」

雪野が目尻を下げて俺を見上げる。

はにかんだ笑顔がたまらない。

朝から、一体俺をどうするつもりだ。

< 26 / 380 >

この作品をシェア

pagetop