雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
確かにここに帰って来てくれた。ここに雪野がいる。
「迎えに行くと言っただろ? だめじゃないか、こんな時間に――」
雪野が、俺を見上げてくれる――。
「帰るって言ったら、免許取りたての優太が車でここまで送ってくれて。ここに着くまで生きた心地しなかったよ。高速初めてだって言うし――」
ぎこちなく笑う雪野を見ていたら、たまらなくなって。雪野の気持ちも考えずにその身体を抱きしめてしまっていた。
もしかしたら、俺には触れられたくないかもしれない。まだ、俺のことを許していないかもしれない。
そう頭のどこかで思うのに、俺より小さい雪野にしがみつくように抱きしめてしまった。
「――なおさら、俺に連絡しないとだめだろ? おまえと優太君に何かあったどうする」
「ごめんね。でも、帰らなきゃって思ったら。もう居ても立ってもいられなくて」
雪野の匂い、雪野の髪の感触、細い肩――それら全部確かめるように抱きしめる。
「……もう、いいのか? おまの気持ちは、無理していないか?」
雪野の髪に顔を埋める。この小さな身体に起きた、哀しい出来事。それを全部一人で受け止めた、痛々しい身体に胸が締め付けられる。
「創介さん、私と話したいって言ってくれたから。私も、創介さんと話がしたいって思った。それにね――」
雪野が俺の背中を抱きしめ返してくれた。
「お母さんが。何があっても、心にわだかまりがあっても、今日の終わりには絶対に夫婦二人で過ごすべきだって言ったの。私に分からせてくれた」
今日――。
それは、つまり、俺と雪野の子どもを失った日。
「ごめんね。私だけが言いたいことを言って、創介さんから逃げ出して。ごめんなさ――」
「雪野は悪くない。当然のことだ。俺が全部悪かった」
きっと。雪野の母親が俺の元に雪野を返してくれたのだ。
俺と雪野それぞれに、自分と向き合う時間を持たせ、そうした後に二人で過ごさせるために――。
雪野の母親の、あのすべてを包み込むような笑顔が目に浮かぶ。
「――雪野、ごめん。一人で悲しませて、悪かった」
心から溢れる感情が声を震わせる。
「私の方こそ、自分の気持ちばかりで、創介さんの思いを考えようともしなかった」
雪野の声も震えていた。