雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「雪野が、俺の母親と同じようなことになったらって思ったら、妊娠を喜べなくなった。無理をさせて出産して、その後、もしも――そんなことばかり考えて俺たちの子どもに目を向けることが出来なかった。本当に情けないよな。起こってもいないことを想像して、不安に飲み込まれて。結局おまえを傷付けた。雪野のこととなるとどうしても弱くなる。許してくれ……」
「創介さんっ」
雪野が突然、俺の首にきつく腕を回して来た。
「創介さんがお母様を失ったこと、知っていたはずなのに。創介さんが、いつも私を想ってくれてるって分かっているはずなのに、創介さんの気持ちを疑った。私は創介さんの不安を分かってあげられなかった……っ」
雪野の肩が震える。そして、俺の首筋に、熱いものを感じる。
「私、今日、創介さんのお祖母様に呼んでいただいて、榊の家に行ったの。自分からも赤ちゃんのこと報告したかったし、お義母様とも少しでも話をする機会になるって。でも、誰も知らないって、分かって――創介さん、報告してなかったんだと思ったら……」
ごめんね、と雪野が涙を流す。
「俺のためになんか泣かなくていい。不安のあまり子どもが出来たことを喜べないなんて、どうしても言えなかったんだ。何も言えなかった俺が悪いんだよ。そのせいで雪野を孤独にした」
雪野の身体を強く抱きしめる。泣く雪野を身体に感じて、次から次へと後悔ばかりが湧き上る。
「――でも、失って初めて、俺がどれだけ大事なものから目を逸らしていたのかを思い知らされた。もう遅いのにな。誰でもない、雪野との子どもだったんだよな。とんでもない過ちを犯した。ろくでもない父親だった」
俺がこんなに不甲斐ない父親だったから、芽生えた命は愛想を尽かしたのかな。
俺が、喜べなかったから――。
そう思うと、雪野に対しても、なくなった命に対しても、申し訳ないという気持ちばかりが込み上げる。