雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「今、病室で身体を休めてるよ。無事に出産した」
「そうか……。それは良かった。でも、出産したばかりなら、あまり気を使わせても悪い。会わずに帰った方がいいだろうか」
そんなことを言う父に、また驚かされる。確かに、雪野と結婚して約ニ年、少しずつだけれど、父の見せる表情は変わって来ている。特に、雪野に対してだが。
「いや。雪野のお母さんも今来ていて、みんな病室にいるから会って行ってくれ。その方が雪野も喜ぶ」
あの父が一目散に走って来たと知ったら、雪野だって嬉しいはずだ。
それに、父の後ろにいる継母も――。
「お父さんだって、生まれた子に会いたいだろう?」
「それは、もちろんそうだが――」
「二人とも、雪野と子供に会って行ってやってください」
そう俺が告げると、父と継母が顔を見合わせ表情を緩ませた。
「――来てくださって、ありがとうございます!」
雪野の病室へと二人を連れて行くと、真っ先に雪野が俺たちに気付いた。
「どうも、ご無沙汰しております」
「こちらこそ、ご無沙汰してしまって」
そして雪野の母親が立ち上がり、両家の親たちが挨拶を交わす。
「このたびは、おめでとうございます。創介さんによく似た、可愛らしい女の子の赤ちゃんですよ」
雪野の母が満面の笑みをやって来た二人に向ける。
「雪野さん、よく頑張ったな」
おずおずと雪野のベッドに近付き、ぎこちなく父親が声を掛けた。
「ありがとうございます。ぜひ、抱いてあげてください」
「いや、それは。落としたりしても大変だ」
途端に父親が慌てる。
仕事では、どんな局面でも顔色一つ変えない人が――。
「そうですよ。せっかく来たんだから」
「孫ですよ。抱いてください」
皆からせっつかれて、おそるおそる雪野の隣の小さなベッドに眠る赤ん坊を抱き上げた。