雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「本当に、お父さんは仕方がないな……」
はしゃぐ父と真白の二人の背中の後に続きながら、ついそう漏らしてしまった。
「でも、私は嬉しいですよ。真白のこと、こんなに可愛がってもらえて」
二人目がお腹にいる雪野が、柔らかく微笑んだ。
「でもだな、何でも限度というものが――」
「そういう創介さんだって、ちょっと心配になるくらいですよ?」
ふふっと雪野が笑う。
「俺か? 俺のどこが」
「だって、幼稚園の同じクラスの男の子のお話をしてるだけで、創介さん、目に見えるように不機嫌な顔をするもの」
「そんなことはない。雪野の気のせいだ。娘が、楽しく幼稚園に行って不機嫌になる父親がどこにいるか」
「はいはい。じゃあ、そういうことにしておきます」
まったく――。
雪野は、いつの間にか俺なんかよりずっとどんと構えるようになって。しなやかなその振る舞いに、俺はいつも見守られているような気さえする。
いや、"気さえする"は、間違っているな。
一年ほど前に、丸菱の本社に戻った。それまでの、どこかのんびりとした丸菱テクノロジーとは、やはり違う。榊家の人間として外見上は丁重に扱われても、その本音では常に厳しい目で見られているのは分かっている。外様幹部たちとのやり取りに、一瞬たりとも気が引けない。ミスを犯した瞬間に、手のひらを返したように突き落とされる。いつひきずり下ろされるかわからない。常に魑魅魍魎どもと相対さなければならない。
そんな神経をすり減らすような日々の中で、迷いが生じたとき。
『大丈夫。創介さんは間違っていない』
そう、迷いなく俺を信じて力付けてくれることに、どれほど救われるか。雪野は、俺にとって唯一無二の無条件に信用できる存在であり戦友でもある。そして、俺をいつも見守ってくれる。
だから、俺は戦えるーー。
「あっ! 理人おじちゃまだ!」
居間に入ったところで、真白のボリュームアップした声が耳に届いた。