雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
幹部婦人の集まりは、今も変わらず開催されている。創介さんが専務取締役の頃までは、私が会を取り仕切る役が回って来ていた。その後も、幹部夫人として参加している。
幹部の婦人たちが集まること自体は悪いことだとは思わない。誰もが最初は不安で分からないことばかりだ。そんな時、いろいろと教えてもらえる場があるのは心強い。
だからこそ、その場を別の意図を持つものにしてはならないとずっと思って来た。ただ、そこは支え合う場。夫の立場を振りかざすところではない。
もう一度深く頭を下げられてから、柳さんは立ち去った。
「――お母さんってさ、本当にお父さんのこと好きだよね。じゃないと、あんなに尽せないでしょ」
「……え?」
ぼそっと出た言葉に、真白を見つめる。
十七歳にもなると、そんな風に何もかもを分かったような表情で大人びたことを言うのだろうか――。
最近、驚かされることが多い。
「幹部の奥さんたちのお世話したり、お父さんの仕事関係のパーティーだって言えば全部付いて行って、接待みたいなことをしたり。それ、丸菱の社員だったら給料もらってやることでしょう? お父さんもいつも忙しそうだけど、お母さんだっていつでもサポートして、家のこともして息つく暇もない。それなのに、お母さんはタダ働き。お父さんのこと、好きじゃなきゃ出来ないと思う」
冷めた表情で溜息をついてみたり。思春期の女の子の心は複雑で難しい。
「――大好きに決まってるじゃない。だって、お父さん、かっこいいでしょう?」
にっこりとして真白にそう答えた。
「かっこいいって……。そんな理由?」
呆れたように真白が私を見る。意思の強そうな口もとが、創介さんにそっくりだ。
「そうよ。お母さんにとっては、ずっとかっこいい人よ――」
「――それでは、お待たせいたしました。丸菱グループ代表取締役社長就任挨拶を始めさせていただきます」
「そろそろ始まるわね」
場内にアナウンスが響き渡る。
会場内には、主に幹部と管理職が集められている。それだけでも、数えられないほどの人。そして、その下には何十万という社員がいる――。
創介さんは、実質そのトップに立つのだ。
アナウンスの後、創介さんが壇上の中央にあるマイクの置かれた場所へと歩いて行く。今も変わらない、背筋の伸びた姿は、いくつになっても私の胸を高鳴らせる。