雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「もう、俺が脱がせてしまっても、自分で着られるよな?」
結婚したばかりの頃は着付けさえできなかった。でも今は、自分でささっと着られるようになっている。着物を選ぶのもそんなに困ったりはしない。それもこれも全部、凛子さんのおかげなのだけれど。
凛子さんは、世界中を飛び回り、その中で出会った人と大恋愛の末に結婚した。今では、私の一番の友人になってくださっている。創介さんの妻という私の立場から、どれだけ親しくしていても気軽に誰かに相談したりすることはできない。そんな中で、凛子さんは唯一、何でも話せる人。友人であり姉のような、懐深く思慮深い、本当に素敵な女性だ。
「……一刻も早く脱がせたい。久しぶりに、可愛いおまえが見たい」
「可愛いだなんて、もうそんな年じゃ――」
「雪野は、俺にとってずっと可愛い女だよ」
創介さんの力強い手のひらが、私の手首を絡めとる。
「――可愛くてたまらない、俺の奥さんだろ?」
魅惑的な創介さんの視線。その視線に胸が跳ねた時には、もう唇が塞がれていた。可愛くなんかないと分かっていても、そんな風に言われれば、結局嬉しいと思ってしまう。愛している人の言葉ならなおさらのこと。
創介さんの前では、どんなに抵抗してみても、その抵抗も長くはもたない。その腕の中に包まれたいと思ってしまう。
そのまま、創介さんが予約していたホテルの部屋に連れて行かれた。
すべてを脱ぎ捨てられ、恥ずかしくなるほど、しまいにはその恥ずかしさも忘れてしまうほどに大事に大切に抱かれた。
忙ない毎日の中では、自分が女だってことをつい忘れてしまいそうになる。でも、私も女なんだって、創介さんが嫌というほど思い知らせてくれた。
「――今日まで、俺のことを信じて来てくれて、ありがとう」
創介さんの腕の中に包まれその胸に頬を寄せていると、私の髪を梳きながら創介さんが囁いた。
「お礼を言うなら私の方。あなたの妻で良かったって、そう思えるのはとても幸せなこと。私が迷いなく信じることができたのは、創介さんのおかげです」
私の素肌を抱く腕も、髪をすべる指も、どれも全部優しくて。涙が出てしまいそうなほどに幸せを感じる。
「信じさせてくれて、ありがとうございます」
腕の中から顔を出し創介さんを見上げる。
「雪野が幸せで良かった。そうしたいって、結婚してからずっと思って来たからな」
「はい。とても、幸せです」
自然と笑顔になる。変わらず私を愛してくれる創介さんに感謝しかない。
「俺も、おまえといられて幸せだ」
私は、同じように創介さんを幸せにしてあげられただろうか――。
子育てと日々の忙しさを言い訳にして、創介さんに尽くしてあげられなかった時もあったはず。振り返れば不安にもなるけれど、優しい目で私にそう言ってくれるから自分を許してしまいそうになる。
「雪野」
「はい」
大きな手のひらが私の背中を抱く。
「これからも、よろしく頼む」
「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」
ありがとう。私は、あなたと共に生きることができて、本当に幸せです――。