雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――今日は、遅くなるかもしれない」
「理人さんに会うんですよね?」
「そうだ。理人は酒が入ると、話が長いんだ」
そう言いながらも、創介さんの表情はかなり嬉しそうだ。
榊君――理人さんは、所属していた大学の研究室で共に研究していた女性と結婚した。そして、数年前から米国の大学に渡り、奥さんとお子さんとで暮らしている。その理人さんが仕事の関係で帰国するとあって、二人で飲むことになったらしい。
「積もる話もあるでしょうしね」
「――そうだな」
そう頻繁に交流してしているわけではないけれど、こうして日本に帰って来るときには話をして。そんな風に普通の兄弟のように接することができるようになった。創介さんは、それはすべて理人さんのおかげなのだと感謝している。
私も、結婚式で理人さんが幸せそうに笑っているのを見て嬉しくて。そして、そんな理人さんを見つめる創介さんの潤んだ目を見ては、また胸がじんとした。少しずつ時間をかけて、歩み寄る二人をずっと見てきた。
「理人さんによろしく伝えてね。創介さん――そろそろ行かないと」
「そうだな」
創介さんが腕時計に目をやり、鞄を手にした。部屋を出て行く創介さんの後に続く。
その時いつも私は、寝室にあるチェストの上に目をやるのだ。そこには、タイシルクで出来たそれぞれに色の違う5頭の象がある。私たち家族の証だ。
今日も、家族みんなが無事でありますように――。
そう心の中で祈るのがいつからか日課になっていた。
「社長、奥様、おはようございます」
二人で、玄関から外に出た時にちょうど黒い車が停まり、運転手さんが車から降りた。
「おはよう」
「おはようございます。今日も、よろしくお願い致します」
創介さんが挨拶を返した後に、私も続けて挨拶をする。車に乗り込む創介さんに、いつものように「いってらっしゃい」と声をかけた。
「行って来る」
創介さんが私と視線を合わせる。
こうして仕事に行く創介さんを、毎日同じように見送る。これまでも、そして、これからも。少しずつ速度を上げて行く車が、見えなくなるまで立っていた。
この先もずっと。
あなたと共に歩く人生は、続いて行く――。
【完】