雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「次は――」
次のは、重量級だな、おい。
これ、俺の口からは言いたくない。言えないっ――。
そんな俺を察したのか、三井が顎で俺に指図して来る。まさにあいつの質問だ。
「本当に、申し訳ございません」
俺は、最初に深々と頭を下げた。そして勢いに任せて質問を放った。
「お、奥様の、どんなところを一番可愛いと思いますか――」
「ちょ、ちょっと待って」
初めての、榊常務からの”待った”が出た。
「これは、実は、俺に対する何かの罰ゲームだったりするのか? 一体あとどれくらい続くんだ?」
「え、ええと、まだ、もう少しあります――」
「まだ、妻に関することが続くのか? これ、社内報の記事にするんですよね? こんな砕けた内容ばかりでいいのか?」
常務がいた丸菱グループ本社なら考えられないだろう。本当にふざけている。
「いいんです! 社員皆が常務のことを知りたいと思っています。社員が知りたいと思っていることを掲載する。それでこそ、社内の広報誌だとは思いませんか? 常務ではあっても同じ会社で働く方。例え会うことはなくても、身近な人なんだと思いたいんです!」
もはや広報誌係でもない三井の意味不明な演説が効いたのか、榊常務が額に手をやりながら懸命に言葉にした。
「――分かった。妻の可愛いところだな?」
「はい。奥様の可愛いと思われるところです!」
三井が身を乗り出す。
「私にとって妻は、その存在自体が可愛いというか、彼女のすることはなんでも可愛いと思う。笑っても怒っても、黙っていても話していても、どんな姿も可愛い。そうだな、私の趣味は、妻だと言ってもいい」
常務はそう言い終えると、手のひらで顔を覆い出した。
心では思っていても、そんなことを言うのは男ならなおさら気恥ずかしいに決まっている。
それでもそう言える常務を、俺はかっこいいと思った。
「――常務! もう、女子社員をどうされるおつもりですか? 皆、ぶっ倒れてしまいますよ」
三井が悲鳴に近い声を張り上げる。
「なら、ここはカットしてくれ」
「カットなんてするはずがありません! 黒字太文字にして掲載します! 特に、『妻が趣味』のところは!」
「おまえはいつから広報誌係になったんだ!」
そう言いながらも、男の俺でも惚れてしまいそうになるのだから、三井がそんな風に興奮するのも無理はない。なんて気がしてきたから困る。