雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「続きまして。お休みの日、プライベートでは何をされていますか?」

気を取り直して、次の質問に行く。もう、この程度の質問、へでもない。

「休みの日――結婚して間もないうえに、出張があったりしたから、特別何かをしていたということはない。これから、少し生活が落ち着いて来たら、二人でどこかに出かけたりしたいと思っていますが」
「そうですよね。まだまだこれからですね――」

そう言って、次の質問に行こうとしたら、三井の”待った”が出た。

「では、この二か月、ご夫婦になられて実感された結婚生活の良さはなんですか?」

本当にもう、”ただでは引き下がらない三井”

さきほどの榊常務渾身の回答『妻が趣味』では、まだ満足できないのか。なんて貪欲な奴だ。

「『結婚生活の良さ』なんて、結婚したばかりの私には簡単に語れない。ただ言えるのは、やはり、妻との生活は幸せだということかな」
「その言葉、妻をただの家政婦だと思っている世の夫たちに聞かせてやりたいです! 二人で過ごせるから幸せってことですよねっ?」

おまえは結婚もしていないのに、何を勝手に主婦代表みたいなことを言っているんだ。

「ところで、榊常務は、家事をやられたりするんですか? なんというか、全然想像がつかないのですが……」

確かに。それは、俺にもまったく想像がつかない。

榊常務が家事――。
洗濯機に洗剤いれていたり、掃除機をかけていたり、洗濯物をたたんでいたり――?

いやー、まずそんな想像できない。

「家事はあまりやり慣れていなくて。妻がしていることを手助けする程度だな。でも何もできない夫もどうかと思うから、とりあえず今は、料理を妻から習い始めたところです。そうだ、食器の片付けくらいなら、一人でできる」

食器の片づけはまず初めに覚えたというところなのか。
どこか誇らしげに語る常務が、少し可愛い。

って、俺の思考回路が三井に近い付いてしまっているような気がしてきた。

「そんな常務の努力を見て、奥様もお喜びなんじゃないですか?」
「手伝うと言っても、実際のところはよけいに手間をかけさせている状態で申し訳ないと思っている。それでも、喜んでくれている姿を見るのは嬉しい」

そう話す常務の表情は、本当に嬉しそうで。俺まで幸せな気分になって来る。

「そういう優しさの持てる素敵な奥様なんですね……。奥様の一番の魅力はなんだと思われますか?」
「……その人柄、かな。いつも真っ直ぐであろうとする姿勢、常に相手を思いやる気持ち。そんな妻を尊敬している」

――。

この部屋にいる一同全員が、おそらく胸を打たれているだろう。だから、あの三井ですらすぐには声が出て来ない。

でも――。

「……尊敬。尊敬って言葉を旦那様に言われたら、私、一生ついて行けます!」

やっぱり、黙っていられないのも三井。その目は完全にうるうるしている。目を潤ませながらも、結局その口は止まらないらしい。

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