雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「それにしても、キッチンで二人で並んで料理なんて、いいですね! その姿、私、透明人間になって後ろから写真撮りたいですっ!」
そこは、三井のツボだったらしい。また声が大きくなる。
「それは、やめてくれ」
「どうしてですか? 奥様の魅力をたくさんの人に発信したいです!」
「妻の可愛らしさや彼女の魅力は、正直、私だけの秘密にしておきたい」
「もしや、常務はおそろしく独占欲高めのタイプですか? 極度のやきもちやさんとか――」
「三井さん! あなたの目の前にいる方は常務だということをお忘れですか? あなたの友人や同僚とのお喋りじゃないんです! いくらなんでも度が過ぎます!」
俺も、ちょうどそう思っていたところだった。もう我慢ならなくなったのか、神原さんが部屋の隅からこちらへとやって来た。
「す、すみませんっ。つい」
”つい”にしても程があるだろ……。
神原さんにこっぴどく叱責されている三井を溜息交じりに見ていると、俺の正面に座っている常務が大きく息を吐いていた。
「……ほんと、うちの三井が大変失礼いたしました。お疲れになりました、よね……?」
そんな常務の姿に、そう言わずにはいられなかった。
「あ、ああ。かなり疲れたよ。仕事ですら、こんなにも疲労を感じたことはないかもしれない」
参ったというような苦笑を滲ませ、常務がぽつりと零す。
「――まだ、質問はあるんだったよな?」
「は、はい……」
今度は、お子さんがらみの案件が……。
「お子様についてです――」
「こ、子供……っ?!」
常務が、裏返った声を上げた。そのリアクションに、面喰う。もしかしたら、榊常務、この日一番の動揺かもしれない。
榊常務の表情はどこか硬い。
実は、この質問が一番の地雷だった、とか……?
急にこの部屋の緊張が増した気がするのは、気のせいだろうか。
「その質問は、どの程度ある……?」
常務が、うかがうように俺に聞いて来た。
「は、はい。お子さんは何人くらいほしいか。男の子と女の子なら、どちらが欲しいか。それから、お子さまをどんな風に育てたいか――」
「もう分かった!」
耐えられなくなったかのように、物凄い勢いで常務が俺を止めに入った。
「まとめての答えになると思うが、まだ結婚して間もない。二人での生活も始まったばかりだ。(正直なところ、この二か月いろいろあって子供のことを考えられる余裕なんてない(←創介心の本音))
子供のことについて、特に妻と話したことはない。とりあえずは、二人の生活を軌道に乗せたいと思っています。それから、少しずつ二人で考えたい」
そうだろう。そうだろう。
奥様の意見も聞かずに勝手には答えられないに決まってる。
「分かりました。では、次の質問に行かせていただきたいと思います――」
そう答えながら横をちらりと見てみると、神原さんからきつくお叱りを受けている三井の姿が目に入る。奴が割って入って来ないうちに、すべての質問を終わらせよう。俺は、そう考えて、すぐに次の質問に入った。